救いの話

 

2020年になってから、死にたいと思ったことは格段に減った。毎日ずっとめちゃくちゃ楽しいわけじゃない。収入が増えたわけでもない。恋人ができたわけでも、願いが叶ったわけでもない。ではなぜか。これは本当に、大真面目に言うのだけど。
『推しが笑っているから』である。


ことの発端は職場の人だった。今月ねデビューするグループがいてね。SnowManって言うんだけど。
その人はSnowManが好きで、たまにその話をしてくれてはわたしはその存在をしらなかったのでそうなんですねと言うしかなかった。(当時はアイドルを必要としていなくて、ある賢いYouTuberのイベントに友達と言って楽しさに転げ回るみたいなことばかりしていたから)
わたしはその職場の人と今まであまり上手いこと話せていなかったように思った(別に仕事に支障はないし不便もないのだけど)。でもその人と話ができたら仕事がもっと楽しくなるのかも、ほんとにそれだけの感情で。帰宅してテレビ欄を見ていた私はSnowManの文字を見つけ、チャンネルを回した。

そこに出ていたのが今の推し、佐久間大介さんであった。

真っ白の肌、そこにうかぶほくろ、大きな目、だぼだぼの服(着こなしなのだけどダボダボの服を着ているなとおもっていた)、ニコニコの顔。え、かわいいんじゃないんですか?と思った。
2020年1月、ひたすらに山奥を歩く番組だった。途中から見たものだからあまり思いだせないのだけど、私はすぐに有識者の友達に「佐久間さんかわいいね」と送った。

そこからは早かった。友人からこれ見てあれ見てと動画が送られてくる(ありがとう)。ジャニーズJr.までYouTuberみたいなことをしていたのかとそこで初めて知る。メンバーが先生になる動画で佐久間大介さんが「最高ピーマン!」とか言っていたので第二印象は「ピーマンが好きなのか…」とか思ってた。あとは横顔が綺麗だし、まつげが長いなとも思った。綺麗だ、可愛くて、かっこよくて。
あとは人狼ゲームでバンバン処刑されるのも面白かった。無の表情になっても綺麗だ。メンバーみんなが彼を見て笑っていて、それも好きだった。すごい、この人メンバーにとても愛されてるんだと思った。どの動画も一番煩くて一番やかましくて一番笑っていて、気づいたら私も笑っていて、彼の上がりっぱなしの口角のおかげで私の口角も上がっていた。見ていてすごく楽しかった。

3日後、ここで一度私は悩む。わたしはアイドルとして彼、そして彼らを好きなのか。YouTuberみたいな感覚で彼・彼らを好きなのか。ファンクラブの存在を目にしたわたしは悩む。好きなら入れば良いのだが、YouTuber(みたいな感じ)として彼らを好きなのであればそれはなんだか変な気持ちがした。彼らはジャニーズでありアイドルである。友人から聞くにとてもとても長い間努力をした人たちと知ると余計に悩んだ。アイドルとして彼らをちゃんと好きで愛していけるのかみたいなことを悩んで。
そんなときにまたYouTubeでステージ上でのパフォーマンスを見た。歌が好き、音楽が好き、ダンスが素晴らしい、アクロバットが綺麗、推しの、佐久間さんの、綺麗なかたちのアクロバット。これを生で見れたら。

好きになって一週間半後、ちょうど彼らがデビューする一週間前。同期にペイジーのやり方を教えてもらい入金した。ファンクラブに入った。ここからはもう吹っ切れまくっていた。
CDの特典のためありとあらゆるところでCDを予約した。彼らが載る雑誌もほぼ買ったし今も買っている。彼らが考えていることを読むのが好きだ。すぐに売り切れることが怖いので朝早起きしてコンビニで雑誌を買う。そのために夜早く寝る。生活リズムが整う。朝から推しを見る。綺麗だ。笑っている。わたしも笑う。うれしくなる。憂鬱な朝がキラキラする。私は上機嫌であった。

 

佐久間さんを好きになってから、わたしはマスクの下で意識的に笑うようになった。笑うというか、口角を上げるというか。ただのヤバいやつではあるのだけど、私は医療従事者なもので冬はマスクが欠かせなかった。おかげで誰にも見られないから意識して口角を上げながら仕事をした。いつも笑っている彼へのリスペクトだった。私は彼になりたくなってしまったのだ。
私にSnowManの存在を教えてくれた人にみんな好き、佐久間くんが一番好きと言うと嬉しそうにしてくれて、職場に行くのが前より楽しくなった。好きなものの話ができる人がいると、気持ちが明るい。歩く時は彼らの歌に合わせて、笑う時は佐久間さんを意識して、くらい気持ちになると佐久間さんの笑顔を見て。完全に救いだった。
「一緒にコンサート行こうね」って職場の人に言われて、いやいやそこまでは!と思っていたのに3月のデビューコンサートツアーが当たった。嬉し過ぎて院内PHSでその人に報告するくらい嬉しかった。まあ、感染症のせいで中止になってしまったのだけれど。それがすごく悲しかった。この話は暗くなるからここで終わり。


ところで佐久間さんはオタクだ。
ジャニーズ内のオタクといえばみんな真っ先に浮かぶのは宮田さんだろう(小学生の頃嵐を好きでいた頃から10年くらいあけてまたジャニーズを好きになったぐらいでその間のことは全然わからないのだけど、それでもTwitterでは彼がコミケにきただのなんだの話題になっていたから知っていた)。私は好きなものに対してはオタク気質だったためたまにアニメを見てはハマりグッズを買うみたいなことをたくさんしていた。佐久間さんの部屋もアニメのグッズで溢れていて笑ってしまう。そこで気づいたのだけれど、佐久間さんはオタクだ。オタクなので、オタクの気持ちがわかる。オタクの気持ちがわかると、オタクが何をしたら喜ぶのかわかる。そうすればオタクは負けるしかない。
「みんなにとって俺は何番目の推しなの?まあ何番目でも俺が最後の推しになってやるけどね!」と雑誌で言っていた佐久間さんに私はもうゴロンゴロン落ちていく。ブログでもファンの希望している倍の嬉しい情報を教えてくれるものだからたまらない。カメラうつり、顔の角度、目、表現、表情、ダンス、全部オタクのツボをついてくる。悔しい。かっこよくてかわいくて全力で悔しい。救われてしまうこと自体悔しいと感じる。クソ、と思う。好きだ、と思う。終わりだとも思う。光だとも思う。

3月で前職を辞め、今は転職して新しいことをしている(職場は変わらないので相変わらずSnowManを教えてくれた人とも少しだけ会って話せたりしている)。前職より頭を使うことをしている。毎日お腹が減るのが早くてクタクタになって帰宅する。隣で教えてくれる先輩が佐久間さんの画像を検索して私に見せてくる。「元気でました」って笑う。仕事が頑張れる。大変だが私は幸せである。

宮舘涼太さんが言っていた「やれないは言わない。なんでもやれる前提でいる」という言葉がずっとわたしの頭にある。いろんな人が私を応援してくれるたびに「応援してもらえるのは全力な人だけ」という佐久間さんの言葉が頭をよぎる。彼らみたいに人を元気にする仕事なわけではないが、医療において必要な職種として誇りを持ちながらまた笑ってしっかり努力しようと思える。わたしの人生の革命である。
アイドルはすごい。生きる光である。高速で生きているんじゃないかと思う。誰かの絶対的な生きる理由である。とんでもねえ存在だと思う。

高校二年生の頃からわたしはインディーズバンドが好きだった。当時からなぜか私には希死観念があった。なぜか毎日死にたいと思っていた。夜が怖くて朝も怖い。家族が苦手なこともあり、家に帰っても落ち着かない生活のなか、私を救うのはウォークマンから流れる音楽と世界から隔離してくれるライブハウスだった。彼らは私のネガティブな感情に寄り添ってくれた。うるさいギターは鬱憤を跳ね飛ばしたし、腹に響くドラムは自分が生きてることを実感させてくれた。歌う言葉はわたしのがんじがらめの頭と心を肯定してくれたように思う。それから23歳まで、ずっとわたしの支えだった(もちろん今もだが)。その間わけもわからず何度も何度も死にたかった。理由はわかんない。どうしても死にたかった。でもどうしても生きていたかった。ちょっとでいいからポジティブに笑って、いつもいつも機嫌の良いわたしでいたかった。
そんな私の明るい人間、ポジティブな人間への憧れが、佐久間さんを見て爆発するなんて思わなかったのだ。彼と彼らは私にとって本当に光であり、今私が生きるのに必要な存在である。

 


世が混乱に満ちた大変な中、病院職なのでテレワークもできず、毎日変わらず電車に揺られている。不安に押しつぶされることもたくさんある。そんなときに彼らの動画を見る。彼らが笑っている。佐久間さんが元気を有り余らせている。それを見るだけで私も元気になるのだ。
お願いだから本当に、いつまでも笑って生きていてほしい。あなたが笑っているからわたしは死にたくならない。文字を打ちながら重いなあと思う。でも本当に。メンバーもそうだ。誰1人欠けないでほしい。みんな生きていてほしい。コンサートができる日が見えず希望も遠いが、わたしは今日も、佐久間さんが好きで、佐久間さんが笑っているから生きている。わたしは元気です。